紙ヒコーキの行方

趣味で書いたイタい小説や詩を投稿する、いわば黒歴史製造工場です。

「ちょっと素敵な話」

 

 

 

今週はなかなか仕事がうまくいかなかった。

 

昨日もしょーもないミスで上司に怒られて、なんやクソと思いつつ、今日も出社。

すると、珍しく社長から仕事を振られた。外での作業である。

外に出ると、街路樹を揺らす風が微かに冷気を孕み、空がほんの少し高くなり、雲の輪郭が優しくなって、散歩を楽しむ人たちが薄いアウターを羽織るようになった午前6時半。僕はダンボールの端でうんこをドリブルして排水溝へ落とした。会社の入口の前に落ちる犬のうんこ。

 

なんで俺こんな作業して給料もらってんねん。

 

ちょっと笑いそうになる。

 

さて、食材をまとめてダンボールに詰めて荷造りしていると、昨日発注したシャウエッセンロング2パックが無かった。なんでや。

発注書(リスト形式になっていて、そこに必要個数だけ書き込むやつ)を見ると、書く場所が一列ずれていて、鶏もも肉がきていた。しかも4キロ。

 

なんでやねん。

 

仕方なく、配達の道中にスーパーに寄り道して買うことにした。

 

車の運転中はオーディブルで本を聴いていることが多いが、今日は音楽の気分。SpotifyAIが勝手に選曲して流すスマートシャッフルがあるので、例えば一曲目に井上陽水の少年時代を検索して流すと、それに関連した曲が流れる。次は槇原敬之の冬がはじまるよが流れる。やはりAIは空気を読めない。「季節」で大きく捉えてるやん。次はコブクロの桜が流れるやろ?

 

しかしまあ、たまに久しぶり聴く曲とか流れるのでテンション上がる。AIすごいね。

 

今日の配達先は兵庫有馬方面から神戸。ここいらの客先は嫌な奴が多い。普通に話しかけても塩対応する奴、態度がでかい奴、妙に威圧的な奴、気が萎える。

仕事だから仕方ないとわかりつつ、腹立たしい。

 

げんなりしつつ最後の配達先、高級老人ホームへ辿り着く。もう少しで配達終わるからがんばろうと思いつつ、重い荷物を下ろして、台車に乗せる。

 

そこは35階建てのマンションになっていて34階にレストランの厨房がある。そこに配達するのだが、なんか搬入口の様子がいつもと違う。そこに普段社員が立っていないのに、なんかおるぞ。

 

「すみません、ここに会社名の記入をお願いします」と言われる。

 

 いつもはこんなことしてないのに。

 

 首を傾げつつ、名前を書く。

 

「どちらに向かいますか?」

 

34階のレストランです」

 

「今、停電中でエレベーター使えないんですよ」

 

「は?」

 

 ほんまに「は?」って言った。こんなに綺麗な「は?」って言うのは久しぶりだ。

 

 どうやら法律で建物の電気系統の点検が義務付けられていて、それで停電しているらしい。

 流石にデカいダンボール3箱を持ちながら34階登るのは無理や。

 

 30分待てば、電気が復旧するので、結局待つことにした。まあ休憩やと思おう。

 今日は会社でやる仕事が残っていたので、はやく帰ろうと思っていたのに30分ロスしてる。

 

「なんで日だ!!」って叫びたい。

 

 納入が終わり、虚無の状態で車に乗って、虚無のまま高速道路に乗ると、入り口からわりと渋滞。ダラダラ流れてる。夕方、晴れてるけど、うっすら雨降ってる。「どっちやねん!!」って叫びたい。

 

不意に空に目をやると、綺麗に虹がかかっていた。

 

「おお」とちょっとだけ声が出る。

 

はっきりした虹をみるのは久しぶり。

 

そして、もう一回「おお」と声が出る。

 

はっきりとした虹の外側にうっすらと二つ目の虹があった。

 

人生で初めて二重の虹を見てテンション爆上がり。思わず写真を撮る。

 

 

しかし、外側の虹が消えかかっているのでちょっと残念。でもダブルアーチ。

 

渋滞も悪くないと思って、虹のアーチを抜けると、嘘みたいに車が流れ出す。

 

みんな虹に見惚れていたのかなと、ちょっと素敵な気分になった。

 

手元でスマホの画面をなるべく見ないように、Spotifyコブクロの虹を検索して流す。

 

遠ければ遠いほど 鮮やかな虹の色
心の果てに 描いた夢は 今も 夢のまま
近づけば近づくほど 見えなくなってゆくけれど
消えたんじゃない 光の中に 君は 包まれているから

 

ええ歌。

 

あっ、話はこれで終わりです。

 

 

 

ちなみにスマートシャッフルで次にいきものがかり茜色の約束が流れる。泣きそうになった。

 

やはりAIは空気を読めない。